「いくら裂いても、叩いても、抉っても、泣き言ひとつ言わぬ。」
[>>564王子が可笑しそうに嗤う。
ドールから手渡されたボトルをレトの顔の上で逆さにすれば、水音と共に薄茶の髪がしとどに濡れた。
敷かれた絨毯にぼたぼたと水滴が落ちる。
掻き上げられた前髪の下から覗いたのは、鈍い白。
それが何なのか理解した直後、王子が振り被ったボウルがレトの頭に叩きつけられた。
―陶器の割れる音。
その破片でレトの白い衣服が裂かれていく。
けれどレトは呻き声一つあげずに…笑みさえ浮かべていた。]
「ふ、 ……は、はっ
はははははははははははは!!!!!」
[やがて壊れたようにレトが哄笑する姿を、男は呆然と見ていた。
罅割れた哀しい笑い声は男の心の奥底を深く抉って。
―だから王子がいつの間にか姿を消していても気付かなかった。]