[ 流血の激しい肩を庇おうと、右手で庇いながら
凭れていた壁から立ち上がる。
──指先からは男の持つそれと似たような、
鋭く、長い爪が伸びていた。
かつて能力を暴発させ、戦友を手に掛けた時以来に
出たもの。
寧ろあの時から今まで一度も出さずにいられたものだが。
そんなこと、思っている余裕すら無い。
焔を宿し双眸のまま男を睨みつけ、
人の形を保ったままの──利き腕ではない左手に
ナイフを持ち替え、振りかざす。
利き腕ではない段階で命中するかすら危うい。
自然と大振りとなり、躱すことも容易いだろう。
もしかしたら風圧で僅かな切り傷が出来る程度は
あるかもだが、身を深く切り裂くことは無いだろう。
ガルーのそれと成り果てた右腕を使わぬままに
逆の手で武器を振りかざす姿はさぞ滑稽に見えるだろう。]*