― 悪夢の如き酒宴 ―
[入隊して間もないレトを襲ったのは悪夢のような酒宴だった。
男は王子に招かれてそれに出席していた。その中にはソマーリュの姿もあり。
不穏な空気は感じていた。けれど男は手を出さなかった。それは王子に命じられていたのもあったが。
―グラスが倒される。
再び満たされるグラスを乾すレトの閉じられた眦からは一筋涙が零れ落ちて。
不意に何を思ったのか、席を立った王子はゆっくりと彼に歩み寄る。―その様子は獲物をいたぶる肉食獣に似ていて。
王子はレトの頤に手をかけると男達に見えるよう持ち上げ、ネクタイを引き抜く。
白い軍服の首元から戒めるものが無くなれば、胸元に薔薇のように紅い染みがじわりと浮き上がる。
―悪趣味だな。男は半眼になる。
自分達まで「使う」気か。
平静を装い、ワインを口にしながらちらりとソマーリュの反応を窺ったが、その時彼はどんな表情をしていたか。]