― 回想 ―
[吐息を散らして頭を揺らす。
魔の宿る右手を取って一曲踊る物好きなど、
慎ましさと従順こそ美徳として教えられる上流階級の
やんごとなき姫君等が進んで興じる筈も無い。
人気のない場所に逃げてきたのは、
供物のように当主の命で円舞曲を願う淑女等から
逃れたいと言う思いもあった。
仮面を白手袋に包まれた指先で撫でた所で、人の気配を感じた。>>155
鈴を転がす涼とした声に誘われ、顔を起こせば、
月明かりを集めたドレスに身を包む麗人。]
――…月夜の華に誘われず、歓談に勤しむ男がどれ程居るかな?
[口元に笑みを浮かべて、彼女の揶揄を甘い言葉で包んで返す。
彼女の纏う雰囲気より、社交の場へと連れ出された息女と悟り。]