― 少し前・二階個室 ―
[魔物と人間。捕食者と糧。
そう定められているなら何故、魔に転じても酷似した形をとるのか。
姿も心も、時として在り方さえも境界が滲む。
屠るための家畜のように、人を襲う野の獣のように、
同胞にはなりえないと一目で解り、言葉も心も通じずに済むのなら、まだその方が。
隣人としては生きられない互いにとって、せめてもの幸いになったのではないかと思ってしまう]
――……、
[爪で傷付けた掌から滴る真紅は、ドレスの裾の影で、小さな水溜りを湛えつつあった。呪力で人間の足を掬い、動きを封じる心算で。
封じて、そして――――その後は?
逃がすか、殺すか、魔物にするか。
己の選べる道は全て、新たな禍根に通じるだけだと浅く息を吐く]