― 回想・十数年前スルジエ ―
サシャの望み、ですか?
[ まだ自分が子供の頃、スルジエの宮殿のような屋敷に詰めていた時だった。
人質も兼ねつつ侍従のような役目を他の同世代の子供達と務めていた頃、当時のスルジエの主に問われた事がある。]
特にこれといってありませんが…。
[ 人間が叶う事のない存外な欲望でも、身の程を弁えぬ不埒な願いでも、あまりに馬鹿げて居る事でもなんでもいい――汝の願いを言え。
その時のスルジエの主の眼差しは酷く鮮烈で、眠たげな眼を向けている普段とは別人のようであった。
欲の無い人間は信用できない。
そんな在り来たりの問いであるのか。ならば続けて言った、実現不可能な無茶な願いでもという部分に首を傾げざるを得ない。]