[己を掴む女性の力が緩んだ瞬間を逃さず、金糸雀はするりと手から抜けだした。未だ吸血を諦めきれぬといった様子で、その場を何度かくるくると飛び回ったが]
ぴぃ、ぴぃ、
[お、おぼえていなさいよ!
漸く諦めがついたのか、そんな三下の悪役みたいな捨て台詞を吐いてみるのだった。そして腹いせとばかりに翼で湯船の表面を叩いて、耳を庇う女性の顔の方へとお湯をはね上げた。
相手にきちんと湯がかかったかどうかも確認せずに身を翻して、金糸雀はいまだ蠢くスライムの横をすり抜けて逃げ出した。
ヒトの姿を取っていたならばきっと半泣きだったに違いないが、生憎金糸雀の姿。その表情を理解するものはきっといまい。*]