― 少し前・二階個室 ―
[『自分の思う事を、思うままに』
息子の言葉に、真っ赤な唇の端が、微か満足げに吊り上がる]
――…そうね、正しくその通り。
偶々“運悪く”結ばれただけの、全くの別物だけど。
それでこそ、自主性を重んじる我がシュトラウス家の息子だわ。
[囁いたのは、その色に似た虚言ばかり吐く女が、宴で騙った一代限りの家訓>>0:255
何故こんな身体にしたのか、そう息子に詰め寄られる度、返す答えは毎回違ったが。最後はいつも『運が悪かった』のだと、悪辣な言葉ではぐらかしてきた>>0:65
魔物の身体を厭い、絶望する青年に、幾ら謝罪を尽くしたとしても、魂を祓い清める手は持たず。
今眼前に在る彼を否定するに等しい後悔も、口にしたくはなかった。
――昨日までの同胞が、一夜で糧へと変わった彼が、納得できる理由など何処にもない。魔として生を享けた自分でさえ、その隔たりは未だに、ずっと解らないのに]