――回想・花屋Florence――
あれ。
[花屋から出てきて戻ってみれば、女性はまた正座をしてしまっていた。>>119
先ほど立ってと言ったときは、ちゃんと立ってくれていたのだが。
まあその時もあからさまに落ち着かない様子で、そわそわしていたが。
正座で喋る文化圏の人なのだろうか、と女は思った。そんな人今まであったことがない。
女にとっては、奇妙な行動をする女性であったが、きちんとした佇まいで座って待っている様子は、忠犬という概念を思い出させた。
乗客を犬と比べるのは、失礼かもしれないが。
そんな女性に目線を合わせるためしゃがみこむ。
女にとっては逆に落ち着かない姿勢であったが。一応子供への応対でよくやる姿勢でもある。
そうして女性の眼前に差し出した淡い色の薔薇。
驚いたように女性の目線が上がって、目があった。
目を大きく瞬かせる女性に、花を差し出したまま。]
そうっす。お金、持ってないって言ってたっすから。
プレゼント、っす。
[薔薇の一本はそう高い値段ではない。
幸いにも船から出ない生活で給料はありあまっているから、どうということはない。]