― 回想/16年前・流離い人が止まった経緯 ―
[物心ついた時には、既に旅路の中にあった。
何故旅をしているのか、どこへ向かっているのか、その説明は一度もされた事がなかった。
一か所に留まる事なく、彷徨い続ける流離い人。
ラモーラルに立ち寄ったのはほんの偶然だったが。
その偶然に、不運が幾つか重なった。
旅暮らしに必要なものが不足していたとか、そもそも路銀が危うくなっていたとか。
そんな状態の時に、自分が旅の疲れから熱を出して動けなくなってしまったのだ。
そうでなくても初めて足を踏み入れた土地、頼る宛もなく。
兎にも角にも、医術の心得のある者はどこか、と尋ね歩いていた父に声をかけてくれたのが、当時宰相だったノイヤー卿だった]