― むかしばなし ―
[天の英霊、とも称される天聖の勇者。
その役割故に、史書や記録の類からその存在を抹消されている者。
いつか再び来る『混沌の王』の襲来に備えるべく、記憶を引き継ぐ形で転生し続けるその魂と、直系の血脈を受け継いだ少年は、幼い頃から類稀なる才を発揮し、その頃には既に正規神官としての職務を果たしていた。
とはいえ、母である当時の神官長の方針もあり、神殿勤め一色の生活を送る事はなく。
門前町の同世代たちと付き合う時間もちゃんと与えられて──まあ、その関係で『ちょっとワルい仲間』なんかもいたのは余談としておいて。
ともあれ、週に一度は門前町でゆっくりする時間が与えられるのがその頃の日常だったのだが、その日は朝から生憎の雨。
なので、神殿でゆっくり過ごすか……と決めて宛なく歩いていたのだが]
……ちょっと待てよ。
[神殿の奥にある、禁書書庫。
立ち入りは厳重に規制されているそこに行く道の途中で見かけたあり得ないものの姿に、思わず低い声が出た]