― 回想:半月前にて ―
[フォールデン総督から親書を貰い一月内に行くと約束してから半月の時が経った。
後継者発表前の慌ただしさも相俟って、白狼館に行く事が出来たのは少しの時間が過ぎたのは許して欲しい。
白狼館の温泉は日々の疲れを癒してくれるので好き好む場所の一つであるが、其れだけで来る訳でも無い。
出迎えてくれた当主は嬉しそうな表情を浮かべていたので真顔で一つの頷きを見せよう>>139。
そして、フォールデン家に訪れる時には必ず墓参りをする事になっていて、墓参りをする度に前フォールデン総督であったアイリの母が好きだったという白い百合の花を供える。
アイリの母は六年前に他界をし、彼女の父も南の国境を守る為に殉職をした。
二人とも国の為にその身を尽くし、父親は命を捧げてくれたのだから王族として軍人として感謝と尊敬の念を抱く。
其れだけでは無く、個人的にもアイリの両親に世話になったのだ。
弟に掛かりきりの母に甘えられない寂しさを知っているのか、前フォールデン総督が王都に来てくれた時は厳しいながらも女性的な優しさを与えてくれた。
そんな彼女に甘える事は中々出来なかったしその機会は多くは無かったが、其れでも柔らかい愛情を与えて貰えたのは嬉しかったし感謝もしている。
6年前の訃報を聞いた時は、真っ先に駆け付け彼女の死を悼んだ。]