[ようやっと自分が彼にキスをされ、ワイン、しかも薬入りの、を口移しされている事に気付く。
自分が作った睡眠薬だ。効能も何もかも知っている。
通常なら軽い睡眠導入剤としての薬力しかない。
けれど、アルコールと混ざった時、その薬力は何倍にも上昇し、体内への吸収も異常に早くなる。
何とか拘束を逃れようとしたが、体格も、技巧も、状況も不利だった。
堪らず口の中の液体を嚥下する。熱が喉を焼く。
彼はそれを見届けると、一歩離れた。
何か言葉を交わした気がするが、程なく襲ってきた睡魔によって、そのあたりの記憶は曖昧である。
目を覚ましたのは夜半を過ぎるか過ぎないか位の頃だったろうか。
既に城内は上へ下への大騒ぎだった。
ふらつく足を叱咤し、中心へと向かえばまず真っ先に飛び込んできたのは血の海。
そして、その中心に立つ朱に染まった同期の姿が今でも忘れられない。]