[羽音が聞こえたからか、何かしら感じるものでもあったのか。
彼の視線が此方を捉えるまで、然程時間はかからなかった。
僅かに見開かれる目とは対照的に、俺は目線を伏せ気味にする。
それでも、精神的に随分無理をしているのは推測できていたから、揶揄うくらいの気概で言葉を投げた。
…だが然し、分かっていて出て行ったとはいえ、いざ本人にそう呼びかけられると普段の飄々とした流暢なまでの饒舌は、完全に成りを潜めてしまった。
「あぁ、あの時より大人になったのだな」、と、幾分か低くなった声に思う。
足を止めてまで待ってくれる、その姿に近寄ってみたところで。>>158
あの時のように、気さくに声もかけられなければ、ウェル、などと呼びかけられる筈もなかった。]