[首を振って昔日の回想を終了し、ヴィンセントは深紅をたたえたショットグラスを錫のトレイに乗せた。
運んでゆく先は、ジークムントのことろだ。
邪悪から隔離されるように聖域で育てられてきたジークムントは、ギィの血を分ち与えられ闇の眷属となった今も、人の血を糧とすることに抵抗をもっているという。
だから、人の血脈から直接啜るのでなく、こうして搾り取った血をグラスに入れて勧めることにした。
死者の血は、実に苦い。
ヴィンセントなら飲みたいとは思わない。
だが、その苦みも自らの業を悔いる彼にはふさわしかろう──
そんな勝手な理屈をつけて、ヴィンセントはジークムントの部屋へと向かった。*]