[爪やすりや、缶切り、栓抜きなどが付いているツールナイフ。非常用の道具のセットを購入した際に付いていたそれに指先が触れてどきりとする。小さいとはいえ、刃物だ。男は無言でそれを奥にしまい込む。その顔は少しだけ蒼褪めていたかもしれない。ナイフを使う機会なんて、そうそう訪れない。特に一瞬考えてしまったような事には――。男は自分に言い聞かせ、周囲に視線を巡らせる。]