―朝の厩舎―
ヴォルトカルク、おはよう。
[逞しい黒馬と視線が合えば、にこりと声を掛ける。
愛想を振りまくような馬でないのは知っているから、反応がなくても気にしない。
ふと思い出すのは、この馬によく乗っている上級生のこと。
そもそもこの学校には、軍人になろうという者が集まっているのだ。
同級生や先輩後輩たちとの実戦に近い訓練の中で、普段の態度とは異なる苛烈さや冷徹さを垣間見ることは珍しくない。
けれど、ベリアンのあの刃捌きは、それとは違って見えた]
気のせいだと思うようにしている。
本気を出せば違う側面が見えるなんて、皆と同じ。
ウェルシュも、レトも、カレルも、彼を良き友人と見ているのだし。
うじうじした5年生の相談にも乗ってくれた、親切な先輩だ]