[礼を欠いても、彼の指は竪琴を弾くに忙しい。 咎める為の唇は、尊き神への愛を謳うばかり。 膨らんでいた蕾は歌声に誘われて萼を割り、しどけなく大地を彩る。 清楚な花々は蜜に濡れ、馥郁が濃度を増す。 ネロリの香りと混じり、空気が甘く膨らんだようにすら思えた。 普段は視覚以外の感覚に怠惰を許しているが、今この時ばかりは鋭利に研がれていくようだ。自身の中に満ちていく甘い香り、夜も堕落も知らない清冽な彼の香り。 小さく鼻を鳴らすと、天の御使いが人の子へ施す祝福を捉え。>>153]