― 回想:領主の間にて ―
[相変わらずちまちまと作業をしながら、ふと、道具箱から木製の領主の足型を取り出し、廊下で会った領主のことを思い出していた。
彼の靴は1度だけ自分が作った。
靴職人である父親に10歳の時から厳しく仕込まれていたため、職人歴はすでに12年。
ベテランである父親にはまだまだ及ばないが、18の時に独り立ちの試験として領主の靴を作れと言われた。
何度も何度も作り直し、やっと会心の一足が完成して免許皆伝になり、ほどなく幼馴染と結婚した。
しかし、幸せは2年しか続かなかった。
その時に花を贈ってくれた領主にフランツは感謝していた。
――領主はもう覚えていないかもしれないが。]