[アレイゼル領の統治の難しさに比べ、豊かな穀倉地帯と、金の成る木ともいうべき貴族の別荘地を領内に抱えたクレメンス領…地の利に甘えて放蕩を重ねる不埒者と、その目には映ったか、先代の頃には何かにつけ張り合うような態度をとっていたアレイゼル卿も、当代となってからは、賢明かつ細心をもって並み居る官僚貴族の間を立ち回り、若くしてその実力は明らかに認められ始めている。
しかし心底を容易に明かさぬ慎重さは、男にとっては先代以上に、油断のならないものと思えていたから、その挙動に関心が向くことは多かった]
[実際、目の前の客人を拾って後、密かに情報と客人の落とした残滓を探って回る者達が居ることも不確かながら把握している。
尤も、墜落したという飛行船の残骸や積み荷は、救出に向かった際に可能な限り回収して領内の倉庫に厳重な警戒を施して保管していたから、彼等が得るものはそう多くはなかったかもしれない]