― 昨日:Nルーム ―
[ 彼女の名を呼んではいけないと、
気づいてしまってはいけないのだと、
自分に言い聞かせてきた。
この船で
それでも、一度名を呼んでしまえば、
空色の双眼から零れ落ちる涙を見てしまえば>>3:286
ありがとう、と紡ぐ彼女の声が耳まで届いてしまったら。 ]
あの星。ル・ウルタールを去る時も、また逢えたら、と。
そればかり考えていた…なんて言ったら、
…僕はまたソールに怒られてしまうかもしれないが。
それでも、…僕は。ずっと…、君に。君に、逢いたかった。
[ 彼女は。サーラは。
今までどれだけの時間を
具体的な時間の長さは学者には測り兼ねる。けれど。
自分の名を誰にも呼ばれなくなることは、
存在を忘れ去られることは、どれほど辛いことだろう。
…想像しただけで薄ら寒い心地になった。
サーラ。と、もう一度呼ぶ。
許されるなら彼女の眦から落ちる涙が見えないように
華奢なその背も、癖のある金の髪も抱き寄せてしまおうと。 ]