―道化師との遭遇(>>68>>69>>70)―
[領主の七大趣味の一つ。忍びで街中に行くこと。
領主の秘密を知る主国の重鎮はなるだけ顔を見せぬようにと言われているが知ったことではない。
領主は領民の生活を見るのが、何にも変えがたく好きだ。そうして重ねた出会いが尊いものだからだ。
人に溢れた街中をある時は変装をするのが常。
そんな折、広場で見掛けた大道芸。多くの人が楽しんでいるようで興味本位で覗いたら実に見事な多芸を披露してくれた。おお、と歓声をあげ拍手喝采。
楽しくなって足繁く何度も領主は大道芸の元へと通った。
この時、男はひとりの観客に過ぎなかった。何とは無しに道具を片付けている道化師を見ていたのは何故だったのか。]
――――……。
[かすかな呟きは鼓膜には届かず。
天を仰ぐその姿。つられるように天を見上げれば、吸い込まれるような空の色。]