― 厨房 ―[アレクシスが去った後は足早にその場を離れた。時ならぬ氷塊を浮かべたワイングラスを片付け、代わりのグラスを選ぶ。ふと脳裏に先ほど目の当たりにしたアレクシスの血の香りが波立って、自らの指の先を氷の針でつつくと、そこに結ばれた血の珠玉を薄く──色の見えないほどにごく薄くグラスの縁へ塗り伸ばしてから、ギィの下に届けるよう命じて影に託した。]