――そして、宿屋。
[宿に帰ってきたなら、自分の部屋へ連れてってほしいとねだったことでしょう。この格好のまま酒場にいては目立って仕方ありません。
部屋に付けばとりあえず降ろしてもらったのでしょうが、それがベッドの上だったか椅子の上だったかはきっと、彼の気分次第。]
レト……さっきは約束守れなくてごめんなさいズラ…。
[そして、語り出します。
本当は今日、他のエルフ達と一緒に旅立つ予定だったこと。けれどここに残ることに決めて仲間に別れを告げたら落とし穴に落とされたこと。服はその時に汚れしまったこと。
この喋り方は森で出会ったこれから生きる術を教えてくれた師匠の真似だということ。]
せっかくもらった服をよごしちゃって合わせる顔がないって思っていたズラけど……
本当は、レトが探しに来てくれて嬉しかったズラ……。だって、エレ、一人ぼっちになっちゃったから……。
[先ほど貰った桃色の包み紙のキャンディを舐めながら、ぎゅぅ、と彼の服の袖を握りしめたのでした。心なしか、潤む瞳で。
あの飴には何かの効果があったのでしょうか。もしあったとしたら、そろそろ効き始めてしまう頃かもしれません。]