[主賓に用意された西の塔に、男は足を運んだことがあっただろうか。――あったとしても、まだ馴染みの薄い城内で自分一人で辿り着ける自信はなかった。吸血鬼は広大な屋敷に住まいたがるものなのか、と。町の一軒家に住んでいた男は思う。やがて至ったのは品の良い調度品が設えられた広い部屋。]―ありがとうございました。どうぞお気をつけて。[ジークムントは室内には立ち入らぬままに、部屋の扉を開けて恭しく礼をする。それに応じるように感謝の言葉を紡ぎながら男も腰を折り、引き返していく彼を見送った。]