[首から提げた、水晶細工。
その謂れや出所は、少年には知らされていない。
それ以前に、自らの生まれ自体も全く聞かされてはいなかった。
──行儀見習いに出した愛娘が身篭り、男児を産んだ時に送られてきた水晶細工を見た時。
先代のアイヒェの当主は、深く関わるべきではない、と判じた。
それが、娘にとっても孫にとっても、最良の形になるだろう、と。
けれど、血の繋がりは容易く断てるものではなかろう、と。
送られてきたその細工は、『お守り』として孫に身に着けさせた。
そこには、中央との繋がりを残す、という打算も少なからずあったのだろうけれど、それは口に出される事はなく。
不自然に増えた『アイヒェの家の次男坊』の存在はしばし街角を騒がせ、近隣にもその噂は届いたか。
もっとも、両親も兄もごく自然に少年と接し、その様子に違和感がなかったことから、噂はいつかたち消えていた。
……少なからぬ圧力がけもあったのは、余談としておいて]