「では、そろそろ船内各施設のご案内を受ける時間です。
船内を歩き回る機会です。ここで船内にベルガマスコ様の存在をアピールしておく必要があります」
[いつの間にかアビィは近づいてきており、彼の肩にそっと手を置いている。
もちろん彼は愉快ではないが、それを黙殺する。
接触回線……アビィのボディと彼のナノマシンとの直接の交信。通称・お肌の触れ合い回線……などというくだらないネーミングを聞いたことがある……]
「もちろん、アピールするのは戦乱の続くギムレー星域を視察しに、アースガルド王国へ赴いた宇宙連邦議会議員、という表の顔です。」
だから貴様に言われずともわかっている!
だがやりすぎてはいかんだろう。あくまで隠れ蓑でなくてはいかんのだ。連邦の人間の公式訪問というのは。
あまりに連邦の目が光っているという印象を与えては、その例の『ラグナロク』とやらを秘匿する連中も、それを横領しようという連中も、連邦の目を恐れて隠れてしまうかもしれん。
それではいかん。
「ご存知でしたら、程度の適切さはベルガマスコ様の手腕のままに」
おい。従者。
貴様、イア様の意志の推敲を命令されているのかもしれんが、あくまで今は私が主人だからな。
そこをはき違えるんじゃないぞ。
「承知しました。ただし、ただいまのご発言に不適切な部分がございましたので、私のこの発言ともども、ログからは抹消させていただきます」
[思わず激した彼だったが、アビィのシステムメッセージそのままな言葉を聞けば、口をつぐむ、いや発進を止めるしかない。
何が不適切だったかをあえて言おうか、"イア様"の一言にほかならない]