― 目覚め ―[ 最初に感じたのは温もりだった。芯まで凍りついた身体の表面を撫でる柔らかな南風のような温もり。それは、命眠る冬から芽吹きの春へと巡る時の流れを呼び起こす。少しずつ、少しずつ、歌に包まれ硬い氷は柔らかな水の流れに変じ、水の中に混ざり込んだ癒しの力が血に濡れた深い傷を洗い、その表面を塞いでいく。氷が全て溶け落ちて朱の色が薄れたと同時に、男の腹を貫いていた剣が、一瞬、パッと燃えたつような炎の色に輝いてから何処かへ掻き消えたのは、術者にも予想外のことだったろう。 ]