―バルコニー―[白銀に光る月は、濃霧を通して間接照明よろしくバルコニーを照らしだす。仄かに明るいその場所は、ふたりだけの舞台のよう。]だいじょうぶよ、怖いことなんて何もなかったわ。ひとりぼっちになってしまったことより怖いものなんて、ないわ。[囁くような声で静かに答えれば、少女は幼子のように純粋な笑みを浮かべた。己を抱く男の腕に抵抗することはせずに、ただ身を任せる。]私の傍に居てくれるの?一度、居なくなってしまったあなたが。ひとりぼっちの人生《よる》は、長いの。永いのよ。