[掲げられる空杯に目を細めて、自身も同じ仕草を返す。
満たされる液体は琥珀か、深紅か。
どちらにしろ、上質なものに変わりない。
舌が酒精の味を求める気配に、軽く咳払いをした。]
あぁ、ご令嬢にはお子がいらっしゃったのでしたね。
随分と奔放な方とお聞きしておりましたから、当時は随分と驚いたものです。
[城に来て数年、己の立場を弁えているので、客人の前にはほとんど姿を現さない。
相手によっては嫌がらせのために顔を覗かせることはあれど、こうしてきちんと席について誰かを待つということは皆無に等しかった。
自身を嫌う吸血鬼たちを好く理由もなく、それならば会う道理もない。
今日こうしてここにいるのは、ヴィンセントと出逢った偶然と、ただの気まぐれからだ。]
公に気に入られるとは、何とも運のないお方だ。
喰らい尽くしてしまわぬよう、骨は残してあげてくださいね。
[冗談交じりに呟いて、くつくつと喉を鳴らす。
野茨公から二人の話は耳にすることがあったため、ほんのわずかではあるが、興味が湧いていることも事実だった。**]