[一転して切なさを帯びた旋律に、寄り添いながら。
小指で押えた、張り裂けそうな高音に、沈んでしまいそうな重い低音に。
パチパチとはぜ、あたたかな。
寄り添うような、他人のぬくもりを。
ビブラートを響かせ、包み込めたら……。
(もうすぐ終わりだ。……終わってしまう。)
"……言っただろ、そういうことするなって。"
"……ありがとう。"
"自分の身を護れ。忘れっぽいな、お前。"
"ああ、暖かかった。"
"お前、すごいな。"
一音一音に想いを乗せて。彼の言葉と表情を、ぎゅうっと詰め込む。その音を、ひとたび鳴らせば、ぶわりと記憶が蘇るように。
キン、と澄み渡った、透明な音色。
それが最後の一音。
水の波紋が広がるように、……ジワジワと広がって、消えた。]