─二日目・奈良公園─[朝食のバイキングでもバスの中でも無言を貫いた炉は、誰の目にも不機嫌そのものに映ったことだろう。自由観光という状況も手伝い、前日共に回った班員は薄情なことにそそくさとどこかに向かったようだった。晴れ晴れとした蒼穹の下、鹿がそこここに屯するのを見遣り。やや遠くでどこかに行く相談をしているのか、隣り合う兄妹を眩しそうに目を細めて眺め、ポケットに手を突っ込む。視界に入れないまでも近くにいる大河に何と声を掛けようか、ただそれだけのことに思考が支配されていた。**]