―現在―
……い、いいえ。
俺は…ラ・ウルタールなんて、知りません。
貴方とは、会ったことはないと思いますよ。
ロゥ…さん。
[思えば、あの遺跡で過ごした午後が、
最後の無邪気でいられた時間だったかもしれない。
こみあげてくる懐かしい記憶に、一瞬言葉に詰まりながらも、
慌ててそう返事を返す。
なにのしがらみもなく、再会を喜び合えたら、
どんなに良かっただろうと思わずにいられない。
時も運命も、もう変えられないことは分かり切っているのに。
思い出の影響だろうか、彼の名を口にした響きに、
かつて勝手に呼んでいた、ラ・ウルタール風の抑揚が、
ほんの僅かに加わってしまったような気がする。
他人には、気づけるか気づけないかの、微かなニュアンス。
ローの耳にはどう聴こえたか、分からないけれど。]