

[唯在るがままに存在していただけの闇は、
彼女に手を伸ばすことを覚え、大望を胸に抱いた。
伴侶の立場を得れば、次は当然心までも欲しくなる。
時を賭けねばなるまいと理解していたのに、此度気は大いに急いた。
彼女を一時でも奪取され、覚えたのは落胆ではなく、只管の飢餓であった。
薄蒼の明かず森は褪せた砂漠に見え、
黎明館は穴の開いた木箱としか認識できず。
モノクロームの世界は一条の光を失い、本当の闇を知る。
そうして、彼女をもう一度手に入れてしまえば、
想いは一層深くなり、片時別離させることも厭った。
それまで彼女に隠していたものを発露させ、
狡猾な男にしては、省みる素振りを一度も見せず。
愛妻ばかりを掌中に望んでいた。>>88]