[取り落とした包丁は幸運にも足をそれ、不運にでも肉をそれ、床へと刺さった。
が、男はそれに意識を向けることはなく、扉を開ける心の準備をする。
声の持ち主に心当たりはあるものの、心当たりがあるからといって気楽に喋れるものではないのだ。
一、二分ほどの間をあけて、農夫の青年の前の扉は開かれるだろう。
心の準備をするためだけに時間を使ってしまったために、脱ぎ散らかしていた衣服やら、引っ張りだした雑貨類やら、仕込もうとしていた肉類やら、突き刺さったままの包丁やらで……
片付けたはずの室内は、物取りが出たのかと思われる程度の散らかりようだったが]