[まだ幼かった自分には、何の実験をされていたのか知らなかった。
大勢の大人の人に追われていたのは知っていた>>128。
ただ、それがどうして自分を追い続けるのか知らなかった。
だってぼくの中にそんな危険なものが植えられたなんて知らなかった。
おかしいとは思ったよ?
気が付いたら動物の無惨な死体が足下にあるんだもん。
自分が血塗れになってるんだもん。
でもまさか、人間を殺して食べるような獣になるとは思わなかったんだもん。
知っていたらあの時>>0:25、“生きたい”なんて言わなかった。
誰も教えてくれなかった。
ただ自分が何かを襲い、喰らい、追われて逃げ続けて。
恐怖に心を支配され、縋る相手もなく、誰かに助けを呼べるわけもなく。
力尽きて死にそうになったとき、やっと手を伸ばしてくれたのが“春の神”だった>>0:25。
幼く、何も知らなかった少年は、やっと見付けた“暖かさ”に縋るしかなかった。
やっと見付けた“手”を離せるわけないじゃないか。]