[覚醒に至った彼の口ぶりからは、余裕が感じられた。>>138
消失に急くのでもなく、天へ果たせぬ帰投を嘆くでもない。
まして、己の腕の中から逃れることに喜ぶ素振りも、何もなかった。]
………、
[彼は怖れを抱かない。
失われようとしているのは、彼自身の筈が、無暗な希望を垂らす。
彼が陥れようとしているのは、邪悪なる怪物。>>139
蒼の麗しい瞳で誘い、抱擁で惑わし、己を狂わす。
小さく二の腕を掴んでいた指が痙攣し、彼の肌を伝い昇った。
そうっと指を立て、左右の掌で触れるのは彼の眦。]