── 城内・庭園 ──
[それはいつだったかの話。
王子の帰還を出迎えるとかなんとか言って
参謀本部を抜け出して東屋で優雅なひと時を過ごしていた時のこと。
東屋は八角形の小屋のような形状だが、手前に生い茂る薔薇の枝で、ひと所視覚が出来るのだ。その隅に腰かけているとまず廊下側から発見されることはない。
それは、培った経験からのことなのだが、その時は別の場所から発見されてしまった。廊下とは正反対の場所、部下ではなく、東屋の近くでキャンバスに向かう画家に。]
絵、描いてはんの?
[彼女が宮廷画家か、とさして興味もなさげな第一印象。
思い浮かべた当代の王の肖像画はさすがに彼女の作品ではないだろうが…。それは実物よりももっとずっと聡明そうで穏やかそうな顔。歴史とは常に勝者が作っていくのだと物語っているようだ。]
なぁ、『どっち』の絵が描き甲斐があると思う?
[政治のことなどわかりっこないだろう。
そんな差別ともとれる思想から湧いた言葉。
普段そのように軽率な話題を振る方ではないのだが。]