――他言は、決してするなよ。
[男の低く厳しい声が、空気を震わせた後。
二人は、ローゼンハイムの館の向こう、男が生まれ育った、
村から少し離れた森の中の、小さな屋敷に住みついた。
ひと月後、その年最初の銀嵐の夜に 生を受けた赤子の
金の髪と琥珀の瞳には、黒髪黒瞳の男の面影は何処にもなく。
けれど男は、銀の女と金の赤子を、妻子だと村人には告げた。
村人が、銀の女を見たのは、最初に村に来たこの時、一度きり。
男は、木こりや羊飼いをして暮らし、薪や羊肉の交換と必要な物資を求めて村に赴いた。時折は、金色の髪の娘も伴って。
村に来れば、宿の幼馴染たちに、早く結婚しちまえと、おせっかいを焼いたり、親友の医師と飲み交わしたり、図書館から本を借りたり、村長から国内外の情勢を仕入れようとしたり。
そんな風に暮らして――10年前に、姿を消した。
男の妻子が村から姿を消すのは、その2年後のこと*]
―回想・了―