[その状況はクレステッドにも見えている。
しかしその表情に焦りはない。……もっとも、焦っている余裕もないというだけかもしれないが。
彼は二つの呪文を詠唱し続けたまま、第三の呪文を唱え始める。]
王の道を拓く者達よ
命無くとも手を休めるな
魂無くとも任を続けよ
[呪文を唱え始めれば、死したる亜人兵のうち損壊の少ないものが立ち上がり、動く屍となりて再度攻撃を仕掛け始める。
動きはゆっくりとしたものではあるが、しかしその目に迷いはない。
さて、クレステッドの姿が見えている者は居るだろうか。
彼の表情には僅かな苦痛の色が浮かんでいる。
また、彼の上に、何か光るものが浮かぶのがわかるだろう。魔術に明るい者ならば、それは、生命そのものを触媒とした時の現象に類似していた。
また、その姿は刻一刻と薄れ、空気の色と同化していく。完全に消えるのがいつなのか、そもそも本当にその時が来るのか、それはまだ予測も出来ないだろうが。]