― 夜明け ―
[満月は今宵の行程を終え、西の大地に口付ける。
東の空がしらしらと明らみ、夜のヴェールはしどけなく脱げ落ちようとしていた。
遙かに横たわる山の輪郭が色を取り戻しはじめ、直視を拒む光輝が木々の影を押しのけて昇ってくる。
絡んだ枝の隙間を抜け、光芒の最初の一箭が街を、そして城の窓を射貫いた瞬間、街を閉ざしていたコウモリたちが一斉に黒い霧へと変じた。
霧は空の上で渦を巻き、城へ吸い込まれていく。
一方、一部のコウモリは上空へと舞い上がり、紅い光に変わった。
時を同じくして、赤い霧の影響を受け凶暴化していた人々が、糸の切れたように倒れ伏す。
倒れた身体は紅い光となって、仲間に合流するかのように空へ飛んでいった。]