おお、
健勝そうだな、何よりだ。
[近付く気配>>126に、藪に引っかかった緋色の獣はひらひらと手を振る。
毟った髪はパリパリと音を鳴らし小さな雷が空に散った。
どうにか角は枝から外れたらしい。]
見た通り木々にも愛されるものでな。
離してくれんのだ。
[モテる男はどうにもつらいな。真顔で言い放って肩を竦める。引き摺るほどの長さが鬱陶しくて、枝から枝を乗り移って移動してきた。
ここらで良いかと下に飛び降りてみたら、まあこの様だった。]
ついさっきようやく上の枝が身を引いてくれたところだったがな。
なんの事はない、御主が来たからか。
[どうやらこの美女は、御主の方が好みらしい。
言って豪胆に笑う男の頭上には、今は葉のみが生い茂るが、春には満開の薄桃色を咲かせる枝。
角の一振りで手折れたであろうその枝を、男が敢えて傷付けようとしなかった理由に、目の前の魔神は気付いたかどうか。]