[部屋から流れ出た霧は、薄く静かに拡がっていく。城のあらゆる場所、あらゆる部屋へ溶け込み、空気を仄かに淡く白く煙らせた後、とある廊下の一点へと収束した。薔薇の娘がまつろわぬ民の鎖を解いている背後に現れ、その香を嗅ぐかのように上体を傾けて] ようこそ、と挨拶しておこうか、薔薇の君。 そちらの彼にも。[吐息掛かるほどの近さで囁きかけた。]