― 音楽室 ―
[何となく入った部屋には、壁にずらりとレコードが並び、窓のそばにはつやつやと光る黒いグランドピアノが置かれていた。
本棚には、何度も出し入れされたせいか、ややくたびれた楽譜が作曲家別できちんと整理され、並べられている。
ぐるりと部屋を見渡して、目をとめたのは壁際に並べられた四角いケース。
それを開くと、布に包まれて現れたのは一振りの、まるでミニチュアのようなバイオリンだった]
……久しぶりね。あなた、こんなに小さかったっけ?
[昔彼女に教わった、1/2サイズのバイオリンを慈しむように撫ぜる。
ところどころニスがはげかけているものの、あの頃とほとんど変わらない柔らかな木の感触が懐かしかった。
けれど、それはあまりに小さすぎて、今の体では弾けそうになかった。
だから、もう一回り大きなケースからフルサイズのバイオリンを借りることにした。弓を張って松脂を引き、銀色の音叉を叩いて音を合わせる。
やがて音楽室からは、やや掠れの混じった素朴なメロディーが微かに流れ出すだろう。
――ホーム・スウィート・ホーム]**