[それだけ。
兎が、部屋の前に座っている。
ただそれだけの、ことが。
とんでもない凶兆に思えたのは、
エレオノーレに自らの推測を話したせいだったろうか。
それとも、別れる際の、ベルティルデの顔を思い出したからか。
――一瞬の後。
兎の声が自らにかかろうとかかるまいとお構いなく
部屋に通じる扉を力任せに開けば、見えただろう。
入口からでもわかる。深緋色の海の中の、人の姿。>>67
傍にラヴィが居たならば、後輩の名前が聞こえたかもしれない。
けれど、それすらも今のダーフィトには遠く聞こえるようで。]