[男は他者に触れるのには抵抗はなかった。
男自身が触れられるのはその時の気分によるのだが。
今のように戯れに交わすような触れ合いは、父が死んでからEsに入隊するまでの間は途絶えていた。
別荘での生活は世話係と周辺に住まう数人の住民―多少打ち解けたものの、身分の差もあって友人のようにはなれなかった―以外とはろくに交流する事のない、半分死んだようなものだったから。
此処で再び得られるようになった人の体温は、居場所を三度変えた男に一時の安らぎを与えてくれる。
―気ままに行動しながらも、時折男は無性に誰かの体温が恋しくなる。
それが満たされるのであれば、其処に感情が伴っていてもそうでなくても男は構わなかった。]