―― 地上:ネロリの花咲く丘の上 ――
[その原は随分と高貴な香りに満ちていた。
天使が舞い降りるに相応しい土地で在るが故か、それとも天使が通うからこそ土地が富むのか。鼻孔を擽るは何処か静かで、されど薫香。そよ風に掻き混ぜながらも、決して幽けしものではない。
掌中でステッキが回る。
蒼い空の下、陽光に縁どられた影を歌声が誘う。
人と大地に恵みを施す蒼穹色の。>>61
神の子である人を模すのは案外容易いことだ。
人間は欲を持つ分、天よりも地に近い。
彼が飽きれるその性質こそ、魔族を巧緻に人へ擬態させる。>>51
眼窩の奥へ隠した邪念、隠蔽した魔力は清廉なばかりの天使には悟れまい。ゆっくりと口角を引き上げ、彼の視野へと見せるは月色の温和。]