[村中で見かけたあの人の隣には、青年の姿があった。
あの人の姿を見つけた瞬間に高鳴った心臓は青年の声を聞いた途端に静かになった。代わりに今度は眼の奥で血管が激しく脈打っていた。父さん、と呼ぶ声に二人の関係性は直ぐに察せられた。
その男の視線には直ぐに気が付いた。直ぐに逸らされてしまったが。次いで傍らの青年に視線を向けられればそちらに意識を寄せて。――泣きたいのか、喚きたいのか。ほんの少し前まで、綯い交ぜになった感情で目元を染めていたニコラスだったが。青年を見据えるニコラスの顔には、いまは帽子の下に激情を隠す仮面のような、とり澄ました静穏な笑みが浮かんでいた。]