― 厨房 ―
[そのときの花婿はもういない。
村人達と過ごす時間で幸せを感じることはできても、“夫と”幸せを紡ぐことは、もうできないのだ。]
言いたかった言葉が、山ほどあった。
聞きたかった言葉も、山ほどあった。
……けど、もう言葉を交わす事はできない。
寂しいもんだね。
だからさ、あたしは、言いたい言葉も言えないまま別れる人達を、もう見たくなかったんだよ。
そりゃ、簡単には言いにくい言葉ってのは、あるだろうけど……
いつ二度と会えなくなるかなんて、わからないんだから。
[厨房の中、ひとり――誰かが手伝いに来るなら、その前に。
ぽつりぽつり、零して。]