[―――……何処かで虫が、哭く。
一転、身を翻し、路地裏へと駆けこもうとする。
『どうしたんです?姫君の登場はこれからですよ。』
観衆の一人が、アレクシスに声を掛ける。
アレクシスはその声に振り返ることもなく、肩を小さく揺らして応える。]
―――…… 少し、虫獲りですよ。
この時期になると、小五月蠅いのがよく出ますからねぇ。
特に、今年、は。
[ナミュールを覆っていた白雪は少しずつ融解し、雪解け水となって川となり。
そしてブラバンドの河口へと流れ、海へと抜けていく。
モンシロチョウの群れが晴天のもと、菜の花畑へと向かって、ゆっくりと舞っていく。]
[春が、来たのだ。*]